「越境者」としてのおれ

思えば、おれは生を受けたその環境からして「越境者」たることを運命つけられていたのかもしれない。
国籍・身分・住所・職業そして性(セックスおよびジェンダー)の区別さえ、
最初からおれの中では色あせた意味のない立て札に過ぎなかった。
当然この国の「法」も「世間」もそのような生き方を許すほど「甘く」はなかった。
何度も何度も壁に叩きつけられ、心を折られそうになってもしかし、
おれは「越境」する夢と希望を捨てることはなかった。
そう「パピヨン」「大脱走」のマックイーンのように。
かの「輝かしき日」が訪れれば人類にとってのすべての「境界」は消滅し
おれも「越境者」である必要もなくなるであろう。
生きてその日を迎えることを切望しながら、それをすこし寂しく感じるのは、
おれの俗人としての「煩悩」というべきものであろうか。